N organic Magazine
N organic MAGAZINE 01
終わりなき、五感の旅。
DESTINATION / 新潟・南魚沼
ACCOMMODATIONS / 里山十帖
「読む」から「体験する」へ
雪国の古民家なのに、暖かい。
築150年以上の建物でありながら、モダンデザインの家具やアートが融和した空間に引き込まれる。2014年、雑誌編集に始まり、食品の企画から製造、販売、自ら農業も行う〈自遊人〉が新潟県南魚沼市に開業した〈里山十帖〉。設計から空間デザイン、食事のメニューに至るまでを代表取締役、クリエイティブディレクターの岩佐十良さんが手がけている。「デザインの力とは、生活を快適にするためのもの。〝古民家を守ろう〟というのは簡単。そこから残す術を考えなければなりません。館内にはエアサイクルというシステムを導入することで冬場は暖かさが保たれています」。あえて昔の日本家屋に置いてあるようなものは置かずに、イサムノグチの照明やアルネ・ヤコブセンのエッグチェアなどを配置。編集力を生かしたディレクションで、長い年月を経た建物の魅力を残しつつも現代の人々が快適に過ごすことができる空間を目指した。
十帖とは、十の物語。それは「食、住、衣、農、環境、芸術、遊、癒、健康、集」のテーマに沿ったさまざまなコンテンツにより編まれている。「体験と発見こそが真の贅沢。ライフスタイルの全てを提案できる宿は、新たなリアルメディアです」。米一粒がメディア。座り心地がメディア。そこにある風景そのものがメディア。ここは、体感する〝新潟特集〟。ページをめくるように楽しんでみてほしい。
1_エントランスの中央で存在感を放つ「福小槌」は彫刻家・大平龍一氏の作品。里山十帖のシンボル的存在。 2_“里山アートプロジェクト”と題し、館内にはさまざまなアーティストの作品が展示され、購入も可能。なかでも多く見られるのが川上シュン氏の作品。 3_館内では17種類の床材を使用。スリッパではなく素足で感覚を味わって。 4_〈自遊人〉代表取締役、クリエイティブディレクター岩佐十良さん。雑誌『自遊人』の編集長を務め、里山十帖のトータルディレクションを行う。 5_夕食はもちろん朝食も必見。野菜たっぷりの味噌汁は土鍋で。 6_日々、変化する山々の表情。「毎日見ていても飽きないし、感動します」。自然は壮大なライヴだ。 7_周辺を散策するツアーは季節ごとに異なる。まだ雪が残る4月の初めは、かんじき体験。雪の上で思い思いに楽しむ参加者。
心と体を満たす、豊かな食
里山十帖はもとより、自遊人の根幹にもなっている食。田植えが終わったあとに豊作を祈りつつ、手伝ってくれた人々をもてなすことを、早苗饗(さなぶり)という。レストラン「早苗饗 -SANABURI-」では、顔が見える生産者の米や野菜を使い、添加物は使用せず、食材の力を感じてもらえるような料理を目指している。自遊人が東京から南魚沼に拠点を移して13年。そもそもなぜ、この地を選んだのだろうか。「お米の特集記事を作った時、頭ではわかったような気になっていたのですが、味の違いができることだけはわからなかったんです。それで、現場を見なければならないと考えました」(岩佐さん)。素材である米と真正面から向き合うために、新潟、南魚沼の地へと赴いた。
メインディッシュは、山の湧水を使って土鍋で炊き上げる魚沼産コシヒカリ。まずは“煮えばな”という蒸らす前の状態でいただく。米の甘みと一粒一粒の食感がはっきりとわかる。次に、十分に蒸らした状態で一口。すると、先ほどとは全く異なる食感。
メニューの食材はその時々で変わる全10品のコース「里山十帖」 \12,800。さらに料理に合わせて新潟の自然派ワインや日本酒を5種グラスで楽しめるペアリングコースもおすすめ。
地味だけど滋味。すぐ消えてしまうおいしさではなく、じんわりと余韻が残る味。そして、伝えたいのは背景にある食文化。メインディッシュのお米に加え、八海山や鶴齢といった日本酒も有名な新潟。そして、意外と知られていないのが、伝統野菜が豊富だということ。雪室(ゆきむろ)といい、春に採れた山菜や夏野菜、秋から冬にかけての根菜類を保存する雪国ならではの知恵もある。ここでは自然の営みが全て、料理につながっている。京都で修業を重ね、金沢のくずし割烹の料理長を経てやってきた北崎裕さん。アーユルヴェーダを学び、ヴィーガン料理を得意としてきた桑木野恵子さん。そしてクリエイティブディレクターの岩佐十良さんの3人によって生み出される料理、すなわちフードクリエイションは、ここでしか味わえない。総欅、総漆塗りといった空間で、時間をかけてゆっくりと味わうのもまた格別。
1_残雪に見立てた切り干し大根ソースに、朝摘みの春の息吹。新玉葱含め煮と水蛸桜煮。 2_佐渡メジマグロの握りと塩引鮭のいずし。ヒラメ、アカモク、ホタルイカ。 3_保存食と旬の山菜は、雪室で保存した里芋と山胡桃、にんじんムース、ごぼう。春からの保存食は、マタタビ、木の芽、蕨。夏と秋の保存食は干し柿、菊、きゅうりの古漬け。本日の山菜は、採れたてのつくし、よもぎの豆腐仕立て、ノカンゾウ。 4_肩ロースのグリル 杉の新芽添え、雪室じゃがいものマッシュ、菜花の粕味噌ソース。
里山の引力、再訪の理由
春。少しずつ、生きものたちの気配。緑のグラデーションが美しい夏の棚田。秋の黄金色の稲穂と紅葉。真っ白な雪と静寂に包まれる冬。ここには豊かな自然がある。南魚沼に限らず、地方にはそこにしかない魅力がたくさん存在する。だからこそ、行って体験することに意味がある。旅というと、非日常的な行為と捉えがち。しかし宿というのは、食べる、入浴する、寝るといった日常的な営みを行う場所でもある。この宿では、そのひとつひとつの体験が新鮮に感じられる。ような、原動力を生む宿を」。
日中、目の前には巻機山を望むことができ、夜には湯に浸かりながら天の川を眺められるように設計された露天風呂。化粧水のようにトロトロとした感触、湯の花が舞うといった泉質だ。しかし、大沢山温泉は県内でも秘湯といわれ、極めてマイナーな温泉地。「温泉旅館が廃業するのだけれど、自遊人でやってみないか」。2012年のことだった。源泉を引いている宿はここを含む3軒のみ。しかし温度は27℃と低いため加熱しなければならず、それなりのコストがかかる。「それでもなぜ引き受けたのかといえば、地元農家の方が声をかけてくれたから。新規参入が難しいこの地域で、やってみないかといっていただけるのはありがたいこと。そしてやはり、ここにある自然と風景に一目惚れしてしまったから」。こうした経緯から誕生した里山十帖。さらに、もうひとつの理由はこうだ。「私のプロフィール上、宿は3000軒、温泉は1000カ所以上訪ねてきたとあるのですが、ここを開業した理由に、自分が行きたいと思える宿を作りたかったということもあります。疲れた心と体を癒すだけでなく、新しい何かを発見したり体験するような、原動力を生む宿を」。
1_手間ひまかけたプロダクトを扱うライフスタイル提案ショップ「craft & product THEMA」。家具を中心に、テーブルウエアや食品なども販売。 2_生まれも育ちも高知というコンシェルジュの味元里恵さん。雪国ならではの暮らしに惹かれ、この地へ。 3_細やかな気配りと丁寧なしつらえ。〈edenworks〉のドライフラワー。 4_目の前には巻機山、夜には星を眺められる絶景露天風呂「湯処 天の川」。テーマの異なる12の客室のうち8室は露天風呂付き。 5_メゾネットタイプの客室は2階が寝室。こだわりの寝具が心地よい眠りを誘う。 6_お部屋に着いたら早速ルームウエアに。タグの付いたタオルは持ち帰ることができる。いずれもオーガニックコットンを使用。 7_よく晴れた日の夜には満点の星空が。良い夢が見られそう。
DATA
新潟県南魚沼市大沢1209-6
☎025-783-6777
www.satoyama-jujo.com
※朝食料金を含んだルームチャージ制(1泊朝食)+夕食代
※プラン毎に金額が異なります。詳細はお問合せください。
出自/nice things. 2017年6月号より
Photo_Yoko Tagawa
※食事、料金、内容は2017年取材時点のものです。
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