N organic MAGAZINE
N organic MAGAZINE 03
生きてる空間、成長し続ける家
岡本典子さん 花生師
日々のドラマティック
表紙_後方にある白い扉は、子どもたちも一緒にペンキ塗りをしたもの。植物と相性の良いアンティーク家具。一時だけの使い道と思いがちなベビーチェアも、花台として窓際で活用している。
1_ガラスのショーケースや木箱など、ディスプレイする什器を上手く活用。
2_植物図鑑の1ページをアンティークのフレームに額装するというアイディア。
3_大きな玄関のドアは、リースやスワッグが映えるシックな色味に。
「これ、ママの好きな本ね」。絵本を読み聞かせているのは、花生師 岡本典子さん。この日は、振替休日で小学校はお休み。陸翔(りくと)君は3年生、ことりちゃんは1年生。午後のゆったりとした時間が流れる。仕事柄、生活は完全に朝型。起床時間を訊ねると「仕入れがある日は2時半ですね。聞かない方が良かったでしょう(笑)」。だからこそ、家族全員が揃う朝の時間はとても大切。アンティークのテーブルを囲み、みんなで朝ごはんを食べる。
「あんまり気づかないだけで、植物って衣食住の全てに関わっているんです。衣は麻や綿、食は野菜、住は木造の家や家具。こんなにも私たちの生活を支えてくれているなんて、感謝したくなりますよね」。自身を〝花中毒者〟だという岡本さん。花は〝癒し〟という言葉だけでは表現できないという。それは、パワーもくれるから。「贅沢品といわれたりもするけれど、ずっと昔の、何百年も前から、人のそばには必ず花がありました。お祝いの時も、お別れの時も。そう考えるとすごいなと思う」。花と緑に溢れた岡本さんの自宅。吊るしたり、置いたり。ガラスや鉄、木などさまざまな器に生けられている。生花もドライもMIXされ、まるで、空間そのものが生きものみたいだ。「これだけの量を飾っていても、主役は設けていません。どれも風景のひとつなんです」。
風景を作る時に、考えること。「暮らしの空間であれば、もちろん動線も大切です。私の場合、誰かになりきったつもりで、そこに身を置いて、ストーリーを作るんです。昔から舞台や演劇が大好きだったこともあるでしょうね」。作品にしても、何気なく飾られたものにしても、わくわくするのは、そこに物語があるからかもしれない。子どもたちはというと、今はそれぞれ、サッカーとバレエに夢中。「物事への興味は、自分の感覚と、自分のタイミングでいいと思っています。植物が身近にあるっていいなと思ってくれたら、それはそれでうれしいですね」。
1_錆びた鉄の質感がドライフラワーとも好相性。
2_CORAL&TUSKのデザイナーがプレゼントしてくれた花の刺繍のクロス。
3_絵本『ロッタちゃんと自転車』。
育てがいがあるもの
岡本さんの家は、坂を上ったところにある。「内見した時は、りくとがちょうどお腹にいたんです。不動産屋さんの車でこの坂を登り始めた時、後ろの席で、主人と私は〝この坂ないよね〟〝うん、絶対ないよ〟なんてひそひそ話。なのに家に入った瞬間、鳥のさえずりが聞こえたりして、生きてる感じのする家でした」。こうして一目惚れした物件を購入することに。
壁紙はきれいに貼り替えられリフォームされていたが、DIY好きのご主人は「いじりがいがありそうだ。ここからまた少しずつ作ろう」。家の中の扉もきれいだったものをアンティークの扉に交換し、クロスの壁の上から漆喰を塗った。「主人が中心になって塗ってくれたんですが、職人さんも驚いていました」。ベランダや庭も手作り。2階の部屋の床は家族みんなで塗ったというペンキをこぼしたりしたのも、あえてそのまま。地下の部屋はシアタールームにしたいと話す。夫婦で、次はどうしようかと考えるのが楽しいという。いじりがいのある家。日々の子育て。植物の仕事にみる共通点。「パワーがいる仕事だけど、それ以上がある。子育ても一緒。かけがえのないものをもらっています」。今、陸翔君は9歳。あの時から、ちょうど10年が経つ。
5,6_自分たちで塗った床の上で、ことりちゃんがバレエを披露してくれた。好みも性格も違う2人だけどとっても仲良し。
7_玄関の扉は外側と内側の色が異なる。「この坂を登ってきてくれた人をお迎えする場所だし、第一印象って大事じゃないですか」。帰りは溢れんばかりの植物たちが見送ってくれる。
PROFILE
Tiny N主宰。短大で園芸を学び、卒業後はイギリスに約4年間留学。数々の花コンペティションで優勝や入賞を果たす。帰国後、都内花屋での勤務を経て独立。2006年、二子玉川に自店〈Tiny N〉を構える。2015年には自身のアトリエ〈Tiny N Abri〉を三軒茶屋にオープン。現在TVや雑誌、広告、店舗の空間スタイリングなどを行う。著書に『花生活のたね』(エクスナレッジ刊)がある。
出自/nice things. 2017年1月号より
Photo_Mitsugu Uehara
※料金、内容は2017年取材時点のものです。
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