N organic MAGAZINE
N organic MAGAZINE 06
器から生まれる
wad
大阪_心斎橋
Photo Kazuma Seto(horizont)
気づきを、与える
ここは器とお茶の店。大阪の中心地、心斎橋のオフィス街を抜けた先。建物の外階段を2階へ上がると、〈wad〉には東からの明るい日が差し込んでいる。店内には古くから使われてきたであろう、趣のある木の棚やテーブルが置かれている。「ひとつ勇気を持って2階に上がってきてくれた時に、異世界が広がっているというのをやりたくて」と話すのは、店主の小林剛人さん。人がせわしなく行き交うような、時代の先端を行く土地だからこそ、効率の良さよりも時間の経過を感じるものを大切に。置くものひとつひとつを見極めながら、wadの世界観を作り上げてきた。
メニューは農家から直接仕入れる日本茶が中心。二煎目、三煎目と温度を変え、何杯でも違いを味わえるかぶせ煎茶に、器選びから楽しめる抹茶も。朝の漢方茶も新たに始めた。実にさまざまな種類があるが、席に着くとまずスタッフがお茶の産地から味わい方まで詳しく聞かせてくれる。「お茶の説明は僕がいちばん下手かも」と小林さんが笑うのは、スタッフへの信頼からだろう。知識がなくても、飲みたいお茶を探せるように。少し背伸びして訪れてくれた人にとって、特別な時間となるように。スタッフ全員で共有する想いがある。
「ここでのお茶だったり、器だったり、音楽だったりを通して『こんなのもあるんや、これ何かな?』と、興味がわく場所であってほしいなと思っているんです。飾られたお花から季節を感じて、家でも生けてみようかなとか。急須ひとつ持ってみようかとか。ペットボトルでも十分おいしいお茶は飲めるんだけど、wadでそういう気分を感じてもらえたらと」。選りすぐりの器でお茶を味わうたび、見た目からはわからない、重さや土の感触、使い心地の良さを感じる。誰がどんなふうに作ったものなのか、想いをめぐらせるお茶の時間が、ひとつの器から生まれる。
1_カウンター席では、お茶をいれる様子を目の前で眺められる。
2_「漢方の先生とご縁があって」と昨秋から始めた漢方茶は、10時から12時までの朝のメニュー。冬は体を温めてくれる9種の漢方を煮立て、和紅茶を加えることで飲みやすいお茶に。お茶の前に小腹を満たせるよう、お餅の一椀を添えて。\1,200
伝えてとして
小林さんの原点は、27歳の時に訪れたパリで1ヵ月。「傘にも修復師がいて驚きました」と、ものを修繕しながら使い続ける文化に感銘を受けた。wadではカフェとともに、建物の3階にギャラリーを持つほか、器の金継ぎ・簡易継ぎも受け付けている。カフェ、ギャラリー、金継ぎ。どれも等しく器の面白さを感じてもらうため、10年前のオープンから3本の柱で走り続けてきた。
「お茶をいれるのと展示はアウトプットの意識なんですが、金継ぎは自分の主張が入ったらいけないので、なるべく無でいるようにしていて。どちらかだけずっとやるのは自分の性格的にダメで、どちらの時間も必要なんです。3つがつながっていて、バランスを保っているのかなと」。ギャラリー奥にある工房と、店頭と行き来しながら、小林さんは補助スタッフとともに月に100枚を超える点数の金継ぎを受け付けているという。wadを訪れ、気に入った作家の器を手に入れる。器を存分に使うなかでもしも欠けてしまったら、金継ぎをお願いすればいい。そうして器を長く使い続けられるのは、作家にとっても使い手にとっても、幸せなことだろう。
「wadで知ったあと、お茶農家さんや陶芸作家さんの元を訪れてくれる人がいて。伝え手でありたいと思ってるので、とてもうれしいんですよね。良いものがなぜ良いと思うのか、その感覚が鈍ってたら人に良さを伝えられないから、自分の感覚をいつも大事にして。10年前より感覚は鋭くなっている気がします」。10年経って、一安心。それでもまだまだやりたいことは山積みで、おじいちゃんになっても飽きないのでと、小林さんはいう。
1_この日は簡易継ぎで繕った器を、お客さんが受け取りに来ていた。小林さんが行う金継ぎはwad店頭のほか、〈トモダチノ家〉(P110)でも受け付ける。
2_店主の小林剛人さん。 3_写真中央のオブジェは焼き物作家・尾花友久さんの作品。何百年と続くお寺の土壁を再現しようとする試みたもので、古材のテーブルとともに時間の経過を感じさせてくれる。
4_奥の棚に並ぶ器に、特徴あるカウンターの椅子。小林さんの感覚で選んできたもので、wadの空間は作られる。
shop data
wad
大阪府大阪市中央区南船場4-9-3
東新ビル 2F・3F
☎06-4708-3616
10:00~19:00
不定休
http://wad-cafe.com
出自/nice things. 2019年6月号より
N organic MAGAZINEとは
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