N organic MAGAZINE
N organic MAGAZINE 09
Glück und Gute
辺牟木ちさとさん
山梨_北杜市
自然のまま
肌で感じる心地よさ
例えば、居心地の良い場所に住むように。安心しておいしいと思える食事をとるように。同じように衣も、自然と気持ち良いと感じるものを身にまとって暮らせるように。そのために必要なものを〈Glück und Gute〉の辺牟木(へむき)ちさとさんは企画し、全国の工場でひとつずつ試作を重ね、生み出していく。
肌着のように履いてもらえたらという想いから〈足の肌着〉と名付けた五本指の靴下がある。外側にコットンまたはウール、肌にあたる内側にシルクを使うことで、吸湿性や放湿性、保温性といった素材の特長を掛け合わせている。肌に直接ふれる靴下にとって素材選びは重要。足元が冷えないようにと厚手の靴下を履いていても、汗を吸収できる素材でなければ、残った汗とともに足元が冷えてしまうのだそう。
「シルクは人肌に一番似ていて、足にも優しい素材。快適さを保ってくれるから、足裏がずっと心地いいんです」。二層構造にすることで、シルクの強みを活かしながら弱点である強度をカバーする。また生地のやわらかさにもこだわり、足首から指先までの窮屈さを和らげる。機能の良さがしっかりと裏付けられているからこそ、作る靴下について辺牟木さんはこう話す。「例えば『冷えとりのため』が目的になると、履いた時の心地よさは二の次になってしまうから。頭で考えず、単純に心地よさをただ肌で感じてもらえたらうれしいです」。
表紙_手に持っているのは〈五本指 足の肌着 綿と絹〉。内側のシルクはパイル編み。表面積の広さが吸湿性の良さに。¥1,67
1_辺牟木ちさとさん。椅子にかけられたエンジ色のマットは、靴下製作の際に出た廃材を編んだもの。「工場の方からいただき、長年大事に使っています」。
2_自然素材で柄のある靴下を作るのは難しい。その代わりに色を楽しんでもらえたらとカラフルに。
想いを形にするために
Glück und Guteを作り企画し始めたのは「今4歳の息子がお腹にいた時」のこと。自身の体とこれから大きくなる子どものため、なるべく自然にあるものを取り入れた暮らしがしたくて、日々感じる必要なことを形にするようになった。「あえて新しいものを作り出そうとしているのではなく、自然の流れで必要なものに気づく、その気づきが商品を生み出す原動力になっている気がします。私自身が嬉しいものは、きっと誰かにとっても必要で喜んでいただけるものなのではと思うのです」。仮に一握りの人に向けてのものになったとしても、必要と思ってくれる人がひとりでもいてくれるなら、それでもいいと信じて。
これまで作ってきた靴下に加えて、この冬に向けては湯たんぽカバーなど足元を温めるものの製作に取り組んでいる。2018年に千葉から山梨へ移り住み、寒冷地の寒さを肌で感じながら湯たんぽの良さをもっと広めたいと思うようになった。そして、せっかくここに来たのだから、山梨に関連したものづくりがしたいとも。辺牟木さんが湯たんぽカバーの製作を依頼したのは南アルプス市の〈小林メリヤス〉。ベビー、子どものニットウェアを専門とするメーカーで、代表の木村彰さんは日本オーガニックコットン協会の理事も務めている。
「工場にはそれぞれ強みがあって、技術を持っているということももちろん大切なんですが、作る方との想いが通じ合うことも大切なんです。私が自然素材にこだわっているのを理解してくださっていて」(辺牟木さん)。千葉に住んでいた当時、赤ちゃんに履かせるウォーマーを作ってくれないかと依頼したのが交流の始まり。辺牟木さんにとっては〝ダメ元〟の依頼だったというが、木村さんはその1通のメールに込められた想いを感じたそう。「『この人は本気だ』と思わされる内容だったんです。辺牟木さんがやろうとされていることを、僕らも何か手伝えないかと思って」(木村さん)。
工場の方からいろいろなことを教わっています、と辺牟木さん。現場での何気ない会話から生まれたヒントも、ひとつひとつ衣に編み込まれていく。
1_麻やシルク、コットンの糸で編み上げた靴下。
2_多様な編み地を生み出せるという、コンピュータ制御の横編み機。風合いの良さを引き出せるように職人が調整を加える。
3_検品の工程では、光に当てて傷やほつれがないかチェックする。
4_代表の木村彰さん。製造の現場を歩きながら互いに意見を出し合っていた。
5_試作中の湯たんぽカバーについて、木村さんも「ここまで厚みのある編地はほかにないですよ」と語るほど。
ここにある衣食住
2018年夏に家族で移住し、ちょうど1年。「当時は公団に住んでいて、商品在庫を抱える分、小学生の娘の勉強机も置いてあげられないくらい手狭だったんです。住まいを移すことにもあまり不安はなくて、実行に移さなきゃと思っていました」。北杜市は、住んでいた千葉から夫婦の故郷である関西へ帰省する際によく訪れた中間地点だったそう。自然が作る澄んだ水と空気と、そのなかにある景色に惹かれて選んだこの場所は、ほかの候補地よりも肌感覚で心地いいと思えたのだという。
辺牟木さんは布製品のほか、食品の企画も立てて作っている。そのひとつである〈Dry Fruits Meal〉は砂糖・小麦粉・卵・乳製品を使わず、素材である果実の甘みだけを詰め込んだ焼き菓子。出産前後の体が敏感な時期、こんなお菓子があったらと思ったのがきっかけ。製造を依頼している〈iijima coffee〉と共同開発し、現在は予約制で販売する。
新たな住まいの一角には、ショールームとなる空間を作った。移住したタイミングで会社勤めを辞め、ともにブランドを支える一員となった夫の秀則さんと、お客さんを迎え入れる環境を整えている最中だ。この夏から不定期でオープンする計画が一歩ずつ進んでいる。履き心地の良い靴下と、安心して口にできるお菓子と、居心地の良い土地。どれも暮らすために必要なもの。いつかこの空間を訪れる人はきっと、自然の良さを体中で感じるのだろう。
1_〈Dry Fruits Meal〉7枚入り箱 ¥1,490
2_ウール原毛から作るルームシューズは、靴下に寄り添えるようにと秀則さんが作り始めたもの。羊毛は保温性が高いほか、撥水性があり水や汚れがつきにくいという特長も。
3_林のトンネルを抜けると、移住前に泊まりに訪れていた北杜市の宿へ続く。「今は子育て優先で街中に住み始めたんですけど、子どもが大きくなったらいつかショールームだけでもこちらに移せたらと思っているんです」
profile
2014年に〈Glück und Gute(グリュックントグーテ)〉を創立。2018年、家族で千葉県から山梨県北杜市へ移住。現在はショールームのオープンへ向けて準備を進めている。
http://gluck-gute.com
出自/nice things.2019年10月号より
Photo_Kazuma Seto(horizont)
※料金、内容は2017年取材時点のものです。
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