N organic MAGAZINE
N organic MAGAZINE 10
kashuka
石川春菜さん
山梨_甲府市
暮らしのそばに。
今日も「私」を生きる
涼しげなコットンローンのシャツドレスを軽やかに纏う〈kashuka〉の石川春菜さん。やわらかな雰囲気を持ちながらも、凛とした黒髪のショートヘアが似合う。もともと美術大学でデザインを学び、線描画や水彩画などの絵を描くこともしていた石川さん。モチーフの多くは抽象的なものが中心で、時には寝ることやごはんを食べることも忘れて創作活動に没頭していたという。
20代半ばで結婚し、今では3児の母。初めての出産の時、それまでの自分と大きく変わったことがあると当時を振り返る。「私はずっと想像の世界で絵を描いてきたんですが、子どもが産まれてからは生活が一変し、より現実的なことと向き合う機会が増えました。そうするうちに、絵が描けなくなっていたんです。ただ、何かを作りたいという気持ちは子育てをしながらも常にあったんですよね」。我が子との幸せな時間を感じつつも、自分だけの時間を生きられないという母親ならではの葛藤もあった。そんな時、今しかできないことをやろうと思い至ったのが子供服を作ること。「手を動かすことが好きだったのと、祖母が洋裁をやっていて、幼い頃から私も教わったりしていたので見よう見まねで始めてみたんです」。
2人目の息子さんが1歳になる頃、縫製を学ぶため職業訓練校に通うことに。そこで出会った一人の女性の先生は、独学では身に付けることができなかった技術や知識を丁寧に教えてくれた。「何十年もテーラーで働いていた方で、一つひとつの工程の大切さというのも改めて知りました」。生地の裁ち方、待ち針や仕付けの一手間、縫い代の処理、アイロンのあて方。小さな下準備の積み重ねが仕上がりに大きく影響するということは、お祖母さんから学んだことでもある。
好きなことを諦めない
着る人をそのまま受け止めてくれるような、kashukaの服。日常着としての機能性に加えて、気持ちを底上げしてくれる装いの楽しさを兼ね備えている。甲府市内のアトリエショップでは洋服のデザインから縫製までを手がけ、現在は縫製作業を手伝ってくれる人たち数名と制作を行う。「何でも自分でやらないと気が済まない性格だったんですけど、誰かと一緒に作るということは励みにもなります」。
それから、と石川さんは続ける。「自分がそうだったように、妊婦さんや小さい子がいるとどうしてもフルで働けないので、能力があり働きたい気持ちのあるお母さんたちが、在宅や短時間でも働けるような仕組みを整えていきたいとも考えています」。制作の傍らで縫製ワークショップを開いたりもしながら、日々忙しく働く人たちの息抜きの場や達成感の場を作りたいとも話す。「縫製学校の先生がそうであったように、ソーイングブックでは伝わらない洋裁のコツを皆さんにもお伝えしたいという気持ちでやっています」。
山梨で洋服のお店を持つことは、大学卒業後にアパレルの販売員をしていた頃からの夢でもあった。「10年以上前なので、友人たちには〝こんな田舎じゃ無理〟といわれたりもしたんですけど、良い街だと思っていたし、不思議と不安はなかったんですよね」。同じ地元で活動する仲間に出会えたことも刺激になっているといい、「職種が違っても、志すものはどこか近いと感じていて、お手本にしたい人たちがたくさんいます」。
古くから織物業も盛んな山梨。富士吉田市で開催されている〝ハタフェス〟という織物製品や衣服などの作り手が集まるマーケットなどにも出店した。「子どもたちも大きくなってきたのと、お客様とも直接会ってやり取りしたいので、今年の秋ぐらいからは少しずつ展示会形式での発表を増やしていくつもりです。できることを一歩ずつ、階段を登るようにやっていけたらなと思います」
1_「一番楽しいのはミシンをかけている時ですね」と石川さん。
2_kashukaの洋服はベーシックでナチュラルなカラーが多い。
3_薄手のコットンローンを使用し、ギャザーがたっぷりでも軽やかなエプロンドレス。
4_お祖母さんから譲り受けたという洋裁道具。
5_性別とわず着ることができる、程良い厚みとシャリ感のあるコットン生地のセットアップ。ジャケット ¥20,520~、パンツ ¥17,280~。
6_セレモニーを意識して作ったという子供用のセーラーカラーのドレス ¥12,960~。サイズは90-100。大人用もあるので親子でお揃いとしても。
プロフィール
「快適に装う」を軸に、2011年にスタートした石川春菜さんによるアパレルブランド。2014年に山梨・甲府市内にアトリエショップを構える。制作活動と並行して、県内外の出店や裁縫ワークショップを開催。
www.kashuka.com
出自/nice things. 2019年10月号より
※内容は取材時点のものです。
Photo/Yoko Tagawa(horizont)
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